素 (ㇲ)

“九死に一生”×4を得てからの生き方を綴る

キオク.4 「瓦礫の中」

息子に覆い被さると、すぐ目の前に娘の気配を感じた。きっとその向こうに寝ていた夫が娘を守っている。

私の周囲に風が起きる。天井や壁が降って落ちて攻撃的な風が起きる。

きっとその時間は一瞬だったに違いない。でも崩れが落ち着くまでは長かった。息を止めて動けずにいた。

突然物音がしなくなりシーンと静かになった。真っ暗だった。

さっきまでの月明かりも遮られ、何も見えない。本当の暗闇になっていた。

生きてる。私。息子も無事。たぶん。

みんな大丈夫?と声を掛けると娘と夫も同じセリフを言っていた。

声を聞いてほっとする。手を伸ばしてみると、夫の手に触れた。娘の手もあった。

しっかり握る。

よかった。とりあえずみんな生きてる!

動かないで!動くと崩れるかも知れんから。と注意する。

 

ケガはしてない?

自分の身体の末端まで意識を向けてみる。痛くないか、怪我してないか。

どうやら無傷だ。

夫と娘も無傷らしい。

息子は?返事をしない。

息子!息子!少し焦ってみんなで名前を呼んだ。

息子が返事をした。え、寝てたって?

どんだけ!笑

心配させんな。

 

だけど、辺りの状況はわからない。

私は起こしていた身体を布団に預けた。

枕に頭を置く。と、頭には枕じゃない固いものが触れた。それは木材だった。

固い感触にぞっとした。

そこに頭を置いていたら。。。間違いなく流血の事態。

恐ろしくて暫くその事実を言葉にできなかった。

周囲を手探りで確認してみると、私の左手の空間に壁ができている。

倒れた木材が綺麗に積み重なって壁を作っていた。

なんという。。危機一髪

足元には少し空間を感じた。

左足の左側に、タンスの引き出しが一つ置かれていた。

天井の方へ手を伸ばしてみる。

天井に、触れた。

いや瓦礫なのだけども目の前に天井があるのだ。

近い近すぎる。狭い。やばい。

私の右側には息子。息子の頭が私のわきの下くらいの位置にあってすっかり毛布をかぶっている。

娘は息子の向こうにいる。その向こうの夫が言う。

こっちも壁が出来ている。空間がない、と。

足元に木材が突き出してきていて、膝を曲げてなかったら刺さっていたかも知れない。

娘に少し内側へ移動してもらい、夫は寝返りを打てた。

瓦礫は私たち四人をすっぽり覆うだけの空間を作って周囲に壁を作ったのだ。

すごい奇跡だ。

だけど。。。出られるのか?不安が襲う。

ふと、土のにおいがした。

これ外じゃ?と私は言った。

とにかく周りが見えないのが怖い。携帯が地震速報を報せて鳴る。しかし手の届かない瓦礫の壁の向こうにあるようだ。

夫の携帯は鳴りもしない。きっと壊れたのだろう。

娘のガラケーが、見つかった。

周囲を照らしてみる。視覚で確認すると衝撃がすごい。

どこにも外への通路がないのだ。

頭の上も瓦礫の壁。しかもその瓦礫は私の右腕にもたれかかっていたので、右腕で支えていたのだった。

ガラケーの電波は通じなかった。電話が出来ないとなると、充電が切れるのが怖いので電源は切っておくことにした。

 

それ以上、何もできない。

私はつい「これもしかしたら死んだ方がマシだったかも知れんばい」と泣き言を言う。

すかさず娘から「そういうこと言わないでー!」と怒られる。

絶対大丈夫だからと励ましてくれる。娘の方がしっかりしてた。

そうね、そうね、ごめん。

でも何か言いたくなって。。

「みんな 愛してるよー」と言うと

「今言わないでー!出てから助かってから言ってー!」と怒られた。

ほんとに、もう生きることだけ考えよう。

 

「よし!寝よう!」と元気な声で言うと、みんなが笑った。

この状況で寝るんがと。

体力を温存しよう。夫も、寝れるなら寝た方がいいと言う。明るくなったら動き出せるように。

 

しかし人生の中でも最も長い夜を過ごすことになったのだった。